神奈川県民ホール 年末年越しスペシャル

ファンタスティック・ガラコンサート2021


それでも種をまく(後編)

松尾先生から直々に「司会もやって!」と半ば強引に押し切られ、3回目から私が司会になった。自分のコンサートで喋ることには一切抵抗がないのだが、上野水香さんはじめ、一流の人たちを相手に、しかもこんな大きなホールで、私は無事にその大役を果たせるのだろうかと、心配しかなかった。

 

その話を松尾先生にすると「何言ってんの、いつも通りで面白いから大丈夫大丈夫!」と励まされた。確かに気張ったところで私は私なのだから、その私を推してくれた先生を信じて私らしくいこうと割り切った。

 

ちなみに私の司会には原稿は一切ない。頂いたプログラムをもとに、知らない曲やバレエのことは勉強し、前日のリハーサルを迎える。そこで可能な限り出演者の方々と会話を交わす。人見知りの方もいれば、トークが嫌いな方、逆に喋りだしたら止まらない方もいる。そうしてだんだんと流れが決まってくる。

 

神奈フィルのコンサートマスター石田泰尚さんへのインタビューは、特に好きだった。石田さんは一見怖く見えるが実は礼儀正しい人で、「今回もインタビューお願いします」というと、「はい、いつもの感じでいいですか?」と必ず答えて下さった。

 

コロナがいろいろなことを変えてしまった音楽界。松尾先生も14回を最後に、このコンサートを卒業されることになった。ということで2021年のコンサートで、とうとう私が松尾先生を超え最多出場となってしまった。

 

ずっと司会をし続けてきた自負もあるし、どこよりも大切に考えてきたコンサートだったが、2021年の夏、今後は依頼しない旨が伝えられた。それは残念なことだが、何事にも永遠はないし、その決断に異議はない。私たち演奏家は与えられた仕事をこなすのみだ。

 

ただ公演終了後、常連の方々に「また来年、この舞台で」と言われ、私は涙が出そうだったが「良いお年を」と言うことしかできなかった。

 

石田さんにだけ、開演前にどうしても言っておきたくて「実は今回が最後なんだ。いろいろ失礼があったかもしれないけれど、今まで本当にありがとう」と言うと、しばらくの沈黙の後「分かりました。全力でやらせていただきます」と舞台に出て行った。今まで幾度となく舞台を共にしてきた仲間の背中を、これほど頼もしく見送ったことはない。

 

この15年間で得た経験は、宝物のような財産として私の心で輝きを放ち続ける。そんな貴重な経験を与えてくださった関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。

 

どうしても言いたくて言えなかったこと最後に。

 

尊敬する松尾葉子先生、14年間、素晴らしいお仕事を有難うございました!

 

そして15年間お疲れさまでした、俺!

 

これからも頑張ろうぜ、オーレ!