2022.2.18 王子ホール
ドン・ジョヴァンニ:宮本益光(バリトン)
騎士長:伊藤 純(バス)
ドンナ・アンナ:針生美智子(ソプラノ)
ドン・オッターヴィオ:望月哲也(テノール)
ドンナ・エルヴィーラ:文屋小百合(ソプラノ)
レポレッロ:原田 圭(バリトン)
マゼット:近藤 圭(バリトン)
ツェルリーナ:三井清夏(ソプラノ)
石野真穂(ピアノ)
青山 涼(マンドリン)
浅沼 圭(ダンサー)
長谷川初範(ナレーション)特別出演
演出・字幕:宮本益光
演出助手・振付:成平有子
舞台監督:近藤 元(株式会社アートクリエーション)
字幕操作:アルゴン社
2019年にCDを録音したメンバーが再集結し、王子ホール版のドン・ジョヴァンニを創った。コロナ禍において、特にオペラの上演は難しく、私たちも前日のリハーサルまでは一度もマスクを取ることがなかった。
このオペラ、互いの距離が大切なのはご承知のとおり。人に近づきすぎてはいけないが、女性に近づかないジョヴァンニなんて考えられない。そこでリボンを使って距離を取りつつ、互いの関係性を可視化する演出を考えた。
余計なアイテムは(しかも非日常的な)、下手すると舞台を雑にしかねないと心配していたのだが、皆の経験値の高さがその不安を払拭してくれた。そして皆の音楽の安定度が素晴らしく、演出的に何を要求しても「私たちはモーツァルトをやっているのだ」という思いが消えたことはなかった。
稽古中に気が付いたのだが、初めてドン・ジョヴァンニを演じてからなんと四半世紀が過ぎていた。様々な演出、たくさんの共演者との共同作業を経て、私の思うドン・ジョヴァンニ像が出来上がっていることを感じる。
「金閣寺」の溝口を演じたとき、どうしても放火することの意味に気持ちが届かず、ポケットにマッチを忍ばせて何度か金閣寺に行ったものだ。その行為が美を凌駕することだと悟ったのは、溝口にドン・ジョヴァンニの地獄落ちを重ねたときだった。
騎士長の亡霊を食事に招くという、まさにパンドラの箱を自らの手であけたジョヴァンニ。騎士長の来訪を今か今かと待つ。そして騎士長の亡霊に「誓いの証として手を…」と言われたとき、その興奮は最高潮に達するのだ。それはこれまで自分が女性の手を取るときに幾度となく発した言葉。自らの理解を超えた存在を飲み込んでやろうと、躊躇なくその手を取る…。
もしもダ・ポンテやモーツァルトと話ができたなら、質問したいことがたくさんある。でも私は音楽家だから、言葉ではなく私たちの音楽を聴いてもらいたい、自慢の舞台を観てもらいたい、そんな思いが幾度となくよぎった稽古期間だった。
MOZART SINGERS JAPANという器は確かに作ったけれど、その有機的な人のつながりは、もはや器のふちを維持していない。豊かに溢れ出し、多くの人を巻き込みながら、いつも新しい発見に満ちている。