2022.3.16 銀座王子ホール
【プログラム】
・グルック:おお、私の甘美な情熱が
・トスティ:夢
・ドナウディ:ああ、愛する人の
・信時 潔:鴉
・ヘンリー・クレイ・ウォーク:大きな古時計
・R.シュトラウス:君は僕の心の王冠
・マーラー:美しさのために愛するなら
・加藤昌則:僕らの町の数え歌
・加藤昌則:空に
・ヴァーグナー:「タンホイザー」より 夕星の歌
・加藤昌則:詩がある
【アンコール】
・平和へのソネット
ついにやってきた30回目の「王子な午後」。今回のテーマは「王子が王(キング)になる」というものだっが、裸にカボチャパンツ、白タイツ、そして王冠をつけて登場…というギャグではない。私の原点とこれからを見つめる…そんな想いをのせて構成した。
私はこれまで、依頼されたらその好奇心ゆえに比較的何でも演奏してきたが、最も心血を注いできたのは、イタリア歌曲、ドイツ歌曲、そして日本歌曲である。また私は新作初演や日本初演といった新しい作品や難解な作品の依頼も多く、私自身もそれを楽しんできた。そこには加藤さんの歌曲を数多く初演してきたことで得た、何の情報もないところから新しい作品を音にする学び、喜びがあったからこそだと思う。
30回目ということでいつも以上に気合が入っていたことは確かだった。正直に告白すれば、私はかなりのあがり症で、本番前の数日はお腹の調子が悪くなるのが常だ。それはデビュー当時から現在まで全く変わらない。第九のソロではいまだに膝が震えるし、リサイタルのときは緊張で胸が締め付けられるほど苦しい。そう見えないらしいけど。
そんな私を見越してか、ステージに登場してまずはご挨拶を…と、ピアノの上のマイクを手にしようとしたとき、私のマイクに「KING」とシールが貼ってあるのを見て、私の心は一気に和んだ。「ここはやっぱり私の場所なんだな」と思わせてくれる優しさが有難い。
ところが数曲進んだあたりで異変が起きた。昨年夏に私を悩ませ、ルルを降板する要因となった発作が急に私を襲ってきた。過呼吸になり、思考力が低下し、視野が狭くなる。そんな状態だ。自らの意志とは関係なく言葉が出にくくなり、ひどいと立っていられなくなる。私は舞台袖に下がらざるを得なかった。
少し休んで(事情を知っている加藤さんが繋いでくれた)、何とか最後まで歌い切ることができたが、お客様は楽しんでくださっただろうか…申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
そんなときもホールスタッフは全員が優しかった。私の体調を慮りつつ、最後には私の意志を尊重してくれた。
私はこんなことでホームの愛を再認識したくなかった。でも、その愛に守られていることで私はここまでやって来られたのだ。次回は万全の私でその愛に浸るんだ。
※今はすっかり回復しています。ご心配いただき有難うございます。