2024.11.4 サマランカホール
愛と平和を歌う合唱フェスティバル「ひと・むすぶ・こえ」
・バリトン独唱「Fragments〜特攻戦死者の手記による〜」
・バリトン・ソロ「二十億年前の石」(信長貴富作曲/宮本益光作詞)
信長さんの「Fragments -特攻隊戦死者の手記による-」を最初に歌ったのは2009年、作品と出会ったときはあまりの衝撃にしばらく立ち上がれないほどだった。テキストとなった手紙や史実に力があるのは当然だけど、それが音楽作品として存在することに私は作曲家の苦悩、葛藤を想い、同時に畏怖したのだ。それは事実を我が事にするという、より重い責任を背負うようなことではないか、そう感じたのだ。
私もその想いに近づかんと、できることは何だってした。彼ら兵士の笑顔はもちろん、手紙、その筆跡すら覚えている。そうして私にできることは、この作品を演奏家として表現することしかない。
この曲を初めて歌ったとき、私は母に「どうしても母ちゃんに聴いてもらいたい曲がある。と言うより、母ちゃんが客席におらんと俺の演奏は完成せん気がするんや」と無理言って呼び出した。母は演奏中ずっと下を向いていた。そして演奏後「あんたは好きな歌が歌えて、拍手もらえて、本当に良かった」と言った。
今回「愛と平和を歌う合唱フェスティバル」には、私の出番がもう一つあって、それは「二十億年前の石」という曲を作詞し、そこでもバリトン・ソロをつとめるというものだった。オーケストラと大勢の合唱団、そして大勢の子どもの合唱というフィナーレを飾るに相応しい大曲が、死んでいった者を演じた私の背中を押すように鳴り響く。子どもたちが喜々として「私も今に在る」と歌っていて、「ああ、これこそ希望だ」と思ったら泣けてきた。
リハのとき、どうしても子どもたちの顔が見たくて振り返ったら(本番中も見ちゃったけど)、東京混声合唱団の友だーちも、他の大人も、オーケストラの人も、みんなみんなニコニコしていた。
そして演奏が終わったとき、客席からは大きな拍手が贈られていて、私もあのときの母のように「本当に良かった」と思ったのだ。
「清流の国ぎふ」文化祭2024
ひと・むすぶ・こえ 愛と平和を歌う合唱フェスティバル
バリトンソロ・合唱・管弦楽のための「二十億年前の石」
宮本益光 作詩 / 信長貴富 作曲(委嘱初演)